はじめまして、マンション管理コンサルタントの三浦康介と申します。
大手デベロッパーで15年ほどマンションの分譲・管理に携わったあと、独立して管理組合のサポートを専門にしています。
自分自身も築30年超のマンションで理事長を2度経験し、大規模修繕を取りまとめてきました。

その中で痛感したのが、旧耐震マンションに住んでいる方の多くが「なんとなく不安だけど、何をすればいいか分からない」という状態に置かれているということです。
耐震の話は専門用語が多くてとっつきにくいですし、管理組合で話題にしづらい空気もあります。

この記事では、旧耐震マンションにお住まいの方や管理組合の役員の方に向けて、今すぐ確認しておくべきポイントを実務経験者の目線で整理しました。
難しい計算の話はできるだけ省いて、「まず何をすればいいか」を明確にすることを心がけています。

旧耐震基準と新耐震基準の違いを正しく理解する

そもそも旧耐震基準とは

旧耐震基準とは、1981年(昭和56年)5月31日以前の建築確認に適用されていた耐震基準のことです。
この基準では「震度5程度の地震で建物がほとんど損傷しない」ことが設計の目標でした。

一方、1981年6月1日以降に適用された新耐震基準では、「震度6強〜7クラスの大地震でも倒壊・崩壊しない」ことが求められています。
つまり、旧耐震基準には大規模地震への備えがそもそも組み込まれていません。

両者の違いを表にまとめると、以下のようになります。

項目旧耐震基準(1981年5月以前)新耐震基準(1981年6月以降)
想定する地震規模震度5程度震度6強〜7
設計目標建物が損傷しない建物が倒壊・崩壊しない
大規模地震への規定なしあり

実際に、2016年の熊本地震では旧耐震基準の建物の倒壊率が28.2%だったのに対し、新耐震基準では8.7%でした。
2024年の能登半島地震でも、旧耐震の倒壊率19.4%に対して新耐震は5.4%と、明確な差が出ています。
数字だけ見ても、旧耐震の建物が大地震に対して脆弱であることは否定できません。

旧耐震か新耐震かを見分ける方法

ここで一つ注意が必要です。
旧耐震か新耐震かの判定基準は「竣工日」ではなく「建築確認日」です。

マンションのような大規模建物は、着工から竣工まで1年以上かかることが珍しくありません。
たとえば1982年に竣工したマンションでも、建築確認が1981年5月以前に下りていれば旧耐震基準で設計されています。

確認方法としては、建築確認済証や検査済証の日付を見るのが確実です。
管理組合が保管している書類に含まれていることが多いので、まずは管理会社や理事会に問い合わせてみてください。

旧耐震マンションの現状を数字で見る

全国に約103万戸、耐震診断の実施率はわずか3割

国土交通省のマンション統計データによると、2024年末時点で日本全国の分譲マンションストックは約713万戸です。
このうち旧耐震基準で建てられたマンションは約103万戸とされています。

問題は、この103万戸のうち耐震診断を実施した割合が非常に低いことです。
マンションみらい価値研究所が2025年1月に公開した実態調査では、旧耐震マンション200組合を対象に調べた結果、耐震診断を実施していたのはわずか33%でした。
残りの64%は未実施のままです。

耐震性不足と判明しても6割が未対応

さらに深刻なデータがあります。
耐震診断を受けた物件のうち、Is値(構造耐震指標)が0.6未満、つまり新耐震基準を満たさないと判定されたケースは62%にのぼりました。

そしてその中で、実際に補強工事を実施したのは31.4%に過ぎません。
60.8%の管理組合が、耐震性に問題ありと分かっていながら何も手を打てていない状態です。

Is値の判定基準は以下の通りです。

Is値判定
0.6以上倒壊・崩壊の危険性が低い
0.3以上〜0.6未満倒壊・崩壊の危険性がある
0.3未満倒壊・崩壊の危険性が高い

「診断して悪い結果が出たら資産価値が下がるから、あえて診断しない」という心理が働いている管理組合も少なくありません。
気持ちは分かりますが、地震は診断結果に関係なくやってきます。
知らないままでいることのリスクの方が、はるかに大きいと私は考えます。

今すぐ確認すべき5つのポイント

ここからが本題です。
旧耐震マンションに住んでいる方が、今日からでも確認できるポイントを5つに絞りました。

1. 建築確認日を確認する

まずは自分のマンションが旧耐震基準に該当するかどうかを確認してください。
先ほど述べた通り、竣工日ではなく建築確認日が基準です。

確認方法は以下の通りです。

  • 建築確認済証・検査済証を管理組合の書類から探す
  • 管理会社に問い合わせる
  • 法務局で登記事項証明書を取得する

1981〜1983年頃に竣工したマンションは特に注意が必要です。
竣工年だけでは旧耐震か新耐震か判断できないケースがあります。

2. 耐震診断の実施状況を管理組合に聞く

過去に耐震診断が行われたことがあるか、管理組合や管理会社に確認しましょう。
もし診断済みなら、Is値がいくつだったのかを聞いてください。

Is値0.6以上であれば現行の新耐震基準を満たしていますが、0.6未満であれば耐震補強の検討が必要です。
診断が未実施であれば、理事会で議題に上げることを提案してみてください。
耐震診断の実施は普通決議(過半数)で決められます。

3. 自治体の助成制度を調べる

耐震診断や補強工事には、多くの自治体が助成制度を設けています。

たとえば東京都では、マンション耐震化促進事業として耐震アドバイザー派遣、耐震診断助成、耐震改修助成、建替え助成、除却助成の5つのメニューを用意しています。
具体的な補助金額や補助率は区市町村ごとに異なりますが、診断費用の2/3程度が助成されるケースが多いです。

ただし、助成金の申請は診断や工事を始める前に行う必要があります。
事後申請は対象外になるので、制度を調べるのが先です。
お住まいの自治体のホームページで「マンション 耐震 助成」と検索するか、住宅課に電話してみてください。

4. 長期修繕計画に耐震対策が入っているか確認する

管理組合の長期修繕計画書を確認してみてください。
耐震補強の費用が計画に組み込まれているでしょうか。

実は、長期修繕計画に耐震関連の項目が含まれているマンションは全体のわずか6.9%というデータがあります。
大半のマンションでは、修繕積立金だけでは耐震補強の費用を賄えません。

耐震補強工事の費用は、1戸あたり平均約97万円が目安です。
ただし工法やマンションの規模によって大きく変動し、数十万円で済むケースもあれば、500万円を超えるケースもあります。
資金計画を立てるためにも、早い段階で専門家に概算を出してもらうことが大切です。

5. 地震保険の割引制度を確認する

旧耐震マンションでは、地震保険の「建築年割引(10%)」が適用されません。
この割引は1981年6月以降に新築された建物だけが対象だからです。

しかし、耐震改修を行って現行基準を満たせば「耐震診断割引(10%)」が適用可能になります。
保険料の面でも、耐震改修には経済的なメリットがあるということです。

耐震診断から補強工事までの流れと費用

耐震診断の進め方

管理組合として耐震診断を進める場合、おおまかな流れは以下の通りです。

  • 理事会で耐震化の検討を開始する
  • 勉強会やセミナーで情報を集める
  • 総会で耐震診断の実施を決議する(普通決議)
  • 自治体の助成金を事前申請する
  • 診断業者を選定し、診断を実施する
  • 結果報告を受け、今後の方針を検討する

費用の目安は、RC造マンションの場合で延床面積1平方メートルあたり2,000〜3,500円程度です。
たとえば延床面積3,000平方メートルのマンションなら、600万〜1,050万円ほどかかります。
自治体の助成金を活用すれば、管理組合の実質負担は大幅に軽減されます。

主な耐震補強工法

診断の結果、耐震補強が必要と判定された場合の主な工法を紹介します。

工法概要特徴
耐震壁の増設新しいRC壁を追加する多くのマンションで採用される一般的な方法
鉄骨ブレース補強柱と梁の間にX型の筋交いを設置開口部を残しつつ耐震性を高められる
連続繊維巻き補強炭素繊維シートを柱に巻き付ける柱の粘り強さが向上し、居住空間への影響が小さい
耐震スリット設置柱と壁の間に隙間を設ける比較的軽微な工事で済むケースがある
外付けフレーム補強建物の外側にブレースを設置室内に影響なく施工可能だが敷地の余裕が必要

工法の選択は建物の構造や劣化状況によって変わります。
管理組合だけで判断するのは難しいので、設計監理方式で独立した立場のコンサルタントに相談することをお勧めします。

耐震診断から補強設計まで一貫して対応できる会社としては、1979年創業で2,000以上の管理組合を支援してきた株式会社T.D.Sの特徴や実績をまとめたページなども参考にしてみてください。

管理組合の合意形成を乗り越えるには

耐震化の話が進まない最大の原因は「合意形成の難しさ」です。
費用負担の問題、高齢化、資産価値への不安など、さまざまな障壁が絡み合います。

成功事例から学ぶ

東京都千代田区のニュー九段マンション(1970年築・37戸)の事例は参考になります。

2011年の東日本大震災で壁にひび割れが発生したことをきっかけに、管理組合が耐震化を決断しました。
耐震診断の結果、Is値は0.1〜0.2と深刻な数値でした。

診断費用は500万円でしたが、千代田区から400万円の助成を受けています。
補強工事費は約2億円にのぼりましたが、西武信用金庫の管理組合向け無担保ローン(10年)を活用し、月額約1万円の積立金値上げで返済する計画を立てました。

工事後、Is値は0.6〜0.7に向上して新耐震基準をクリア。
売買・賃貸の査定にも好影響が出たそうです。

合意を得るためにやるべきこと

この事例からも分かるように、合意形成で大切なのは以下の点です。

  • 勉強会を開いて正確な情報を共有する
  • 助成金や融資制度を調べて、費用負担の具体的なシミュレーションを示す
  • 一部住戸に不利益が出る場合は補償の仕組みを用意する
  • 「安心を買う投資」として、資産価値の維持・向上につながることを説明する

「費用がかかるから無理」で思考停止するのではなく、費用を工面するための選択肢を具体的に提示できるかどうかが分かれ目です。

2026年の法改正で何が変わるか

2025年に成立した区分所有法の改正が、2026年4月から施行されています。

旧耐震マンションにとって特に大きいのは、建替え決議の要件緩和です。
耐震性不足などの客観的事由がある場合、従来の「5分の4以上」から「4分の3以上」の賛成で建替えが可能になりました。

また、所在不明の区分所有者を決議の母数から除外できるようになっています。
高齢化や空室化が進んだ旧耐震マンションにとって、合意形成のハードルが一段下がったと言えます。

ただし、法改正で建替えが簡単になったわけではありません。
費用の問題は依然として大きいですし、まずは耐震補強という選択肢を検討した上で、それでも対応が難しい場合に建替えを考えるという順序が現実的です。

まとめ

旧耐震マンションに住んでいるからといって、今すぐ引っ越さなければいけないわけではありません。
ただ、何も確認しないまま「たぶん大丈夫」で済ませるのは、やはりリスクが大きいです。

今日からできることをもう一度整理します。

  • 建築確認日を調べて、自分のマンションが旧耐震かどうかを確認する
  • 耐震診断の実施状況と結果(Is値)を管理組合に確認する
  • お住まいの自治体の助成制度を調べる
  • 長期修繕計画に耐震対策の費用が含まれているか確認する
  • 地震保険の割引制度を確認する

どれも特別な専門知識は必要ありません。
管理組合の書類を確認し、自治体の窓口に電話するだけで、今の状況がかなりクリアになるはずです。

私自身、理事長時代に「動き出すまでが一番重い」と何度も感じました。
でも最初の一歩さえ踏み出せば、あとは専門家が道筋を示してくれます。
この記事が、その一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。